「警備の仕事にも、外国人労働者が増えるのか」
そんな不安や疑問を持つ方もいると思います。
まず、最も大切な点から確認します。警備業への受け入れ拡大は、まだ決定していません。
警察庁は2026年9月、警備業を「特定技能」と「育成就労」の対象に加えることについて、有識者による検討を始めると明らかにしました。現在は、受け入れるかどうか、受け入れる場合にはどのような条件を設けるかを議論する段階です。
この記事では、発表済みの事実と、今後の検討事項を分けて整理します。
この記事の要点
- 警備業への外国人材の受け入れ拡大は、まだ決定していない
- 警察庁が検討するのは、警備業を特定技能・育成就労の対象に加えること
- 背景には、警備業の深刻な人手不足と高齢化がある
- 日本語能力、担当業務、人数、教育、資格などの条件はこれから議論される
- 警備は生命・身体・財産を守る仕事であり、単純な人手不足対策だけでは判断できない
受け入れは「決定」ではなく「検討開始」
2026年9月10日の国家公安委員会委員長記者会見で、警察庁長官は「警備業への外国人材の受入れに関する検討会」を同月から開催すると説明しました。
検討されるのは、主に次の2点です。
- 警備業を育成就労制度と特定技能制度の対象にするべきか
- 対象とする場合、どの程度の日本語能力や受け入れ条件を求めるべきか
つまり、「外国人警備員の受け入れを決めた」という発表ではありません。制度の対象にすること自体を含め、これから検討するという発表です。
警察庁は、有識者による検討結果を2027年の年初ごろに取りまとめるよう求めています。
なぜ警備業で検討が始まったのか
背景にあるのは、警備業の深刻な人手不足です。
警察庁の「警備業における省力化投資促進プラン」では、次の数字が示されています。
| 指標 | 警備業・保安職 | 全職業 |
|---|---|---|
| 2025年9月の有効求人倍率 | 6.70倍 | 1.10倍 |
| 2024年の65歳以上の労働者割合 | 34.3% | 13.6% |
警備の仕事は人を募集しても応募が集まりにくく、働く人の高齢化も進んでいます。警察庁は、厳しい労働環境、低賃金、離職率の高さなどを課題として挙げています。
一方で、犯罪情勢や社会活動の変化により、施設、工事現場、催事などで警備への需要は続いています。人手不足を放置すれば、安全を支える体制そのものが弱くなるおそれがあります。
特定技能と育成就労とは
特定技能
特定技能は、人手不足が深刻な産業分野で、一定の技能と日本語能力を持つ外国人を受け入れる在留資格です。
警備業は現在、その対象分野ではありません。今回の検討は、警備業を新たに対象へ加えるべきかというものです。
育成就労
育成就労は、技能実習制度に代わる新しい制度です。人材を育成しながら、人手不足分野での人材確保につなげることを目的としており、2027年4月1日に施行される予定です。
今回、警備業をこの育成就労と特定技能の両方の対象にするべきかが検討されます。
「外国人警備員が初めて解禁される」わけではない
ここも誤解しやすい点です。
警備業法は、外国籍であることだけを理由に、警備員になることを一律に禁止しているわけではありません。永住者や日本人の配偶者等など、就労制限のない在留資格を持ち、警備業法上の欠格事由に該当しない人が警備業務に就く場合はすでにあります。
今回検討されるのは、特定技能・育成就労という在留資格を通じた、新しい受け入れ経路を設けるかどうかです。
したがって、「これまで全面禁止だったものを初めて解禁する」という説明は正確ではありません。
警備業を一括りにしてよいのか
警備業務には、性質の異なる仕事があります。
- 商業施設や事業所などを守る施設警備
- 工事現場などで車両や歩行者を誘導する交通誘導警備
- 催事や雑踏で事故を防ぐ雑踏警備
- 現金や貴重品などを運ぶ際の警備
必要な日本語能力、判断力、専門知識、危険性は、担当する業務によって異なります。
例えば、緊急時に日本語の指示を正確に理解できなければ、警備員本人だけでなく、周囲の人にも危険が及ぶ可能性があります。施設利用者への説明、警察や消防への通報、避難誘導など、意思疎通が安全に直結する場面も少なくありません。
受け入れの可否だけでなく、どの業務まで担当できるのかを細かく検討する必要があります。
今後、明らかにすべき条件
少なくとも、次の項目は制度開始前に具体化し、公表する必要があります。
- 求める日本語能力の水準
- 必要な教育・研修と試験の内容
- 担当できる警備業務と、担当させない業務
- 資格取得や実務経験の条件
- 身元確認、監督、事故発生時の責任体制
- 受け入れ人数と、その算定根拠
「人手が足りないから受け入れる」という一文だけでは、安全に関する不安への説明になりません。
誰を、何人、どの業務に、どの条件で受け入れるのか。制度を進めるのであれば、政府と業界には具体的な説明が求められます。
労働条件の改善と省力化も欠かせない
外国人材の受け入れを議論すること自体は、人手不足への対策の一つです。しかし、それだけで警備業の問題が解決するわけではありません。
低賃金、厳しい勤務環境、高い離職率が改善されなければ、国籍を問わず人材の定着は難しいままです。
警察庁の省力化投資促進プランでは、警備ロボット、バーチャル警備、ドローン、交通誘導システムなどの活用も示されています。
まず、賃金や勤務環境を改善する。機械化できる業務は省力化する。そのうえで、なお必要な人員と受け入れ方法を検討する。この順序が重要ではないでしょうか。
中道守子の所感
ここからは私の意見です。
外国人材の受け入れを議論すること自体を、最初から否定する必要はないと思います。一方で、「人が足りないから、すぐに対象へ加えればよい」とも考えません。
警備は、人の生命、身体、財産を守る仕事です。接客業や製造業とは異なる責任とリスクがあります。だからこそ、感情的な賛成・反対ではなく、業務範囲、日本語能力、教育、人数、責任体制を一つずつ確認するべきです。
また、日本人が働き続けられない待遇や環境をそのままにして、外国人材で穴を埋めるだけでは、問題の先送りになりかねません。
受け入れるか否かという二択だけでなく、日本の安全をどう守るのか、警備の仕事を持続可能なものにどう立て直すのか。その全体像を示す必要があります。
まとめ
警備業への外国人材の受け入れ拡大は、まだ決まっていません。
警察庁が始めるのは、警備業を特定技能・育成就労の対象に加えるべきかを判断するための検討です。今後は日本語能力、教育、担当業務、人数などの具体的な条件が焦点になります。
安全を支える仕事だからこそ、人手不足だけを理由に結論を急ぐべきではありません。検討内容と根拠が国民に十分説明されるか、引き続き確認していきます。
参考資料
- 国家公安委員会委員長記者会見要旨(2026年9月10日)
- 警察庁「警備業について」
- 出入国在留管理庁「育成就労制度」
- 出入国在留管理庁「育成就労制度の施行に向けた制度概要」
- e-Gov法令検索「警備業法」
※本記事は2026年9月12日時点で公表されている資料をもとに作成しています。今後の検討結果や制度設計により内容が変わる可能性があります。
